困った女上司

わたしには困った女性上司がいます。

彼女の年齢はわたしより一回り年上で、もうすぐ60歳を迎えます。

この女性上司とはかれこれ20年の付き合いになります。

初めて出会ったのは彼女が40代の時、噂には聞いていましたが、すごく美人でスタイルも良く、仕事もデキるバツイチ子持ちの女性でした。

目元がクッキリとしたハーフっぽい顔立ちで、女性にはとっつきにくい感じの性格かと思いきや、美人なのに気さくでわたしのことも可愛がってくれました。

では何が困ったのかと言うと、彼女は男性に惚れっぽく、だらしがなく、水面下で色々やらかしてきたのをわたしはこの目で見てきました。

仕事は商品企画部で、割合でいえば女性がほとんどです。

その部の中のとある課の課長が彼女でした。

商品企画部は、総務部や営業部などとは別の部屋に部署を構えていて、外部との接触はあまりない、ほとんどが女性の閉鎖的な場所です。

営業の方も、商品不具合や、クレームなど、よほどのことがないと来ないのが普通ですが、うちの課には課長目当てでやってくる男性がたくさんいます。

3時のおやつなんかも持ってきてくれるので、わたしたち女性社員にしてみれば課長さまさまでした。

ある日、さほど忙しくない時期に課長は有給を取っていました。

いつもうちの課に顔を出す営業のAさんも、顔を出しません。

やっぱり課長がお休みだと来ないのねえ、なんて皆で話をしていたら、同じ商品企画部でうちの課とは別の課の女性が、「やばいもん見ちゃった」と部屋に飛び込んできました。

「出張先からいま戻ったんだけど、新幹線降りて在来線に乗り換える時に、〇〇課長とAさんが手を繋いで歩いているのを見ちゃった!」と言うではありませんか。

普通であれば、まさか見間違えじゃない?となると思いますが、一同「あり得る」とうなずきました。

そう思うほどここ最近の課長とAさんの雰囲気は「ちょっといい感じ」になっていたのです。

しかし課長は子供がいるとはいえ、バツイチですが、Aさんは確か奥さまがいるはずじゃ・・?ちょっとヤバイ予感がしました。

それから社内の飲み会があると、課長は「今日は子供の都合で早く上がるから」と途中で抜け、Aさんも後を追うように「今日は調子悪いからつきあえない」とそそくさと帰ったりと、ラブラブぶりが伝わってきました。

そして数ヶ月経ったある日、Aさんは顔に絆創膏を貼って出社しました。

その顔には傷がアチコチに出来ています。

親しい人が「どうしたの?」と声をかけますが、「飼っている猫にやられた」と言ったそうです。

なんてベタな言い訳・・・。

課長との内情を知るわたしや一部の人は、こりゃ奥さまとモメたな、と容易に想像出来ました。

そしてまもなく、なんとAさんの奥さまが会社に乗り込んできたのです。

乗り込んできたと言っても、ちゃんと人事部長とアポを取って、就業時間以降に来社したそうです。

感情的に見えて実は冷静な行動ができる奥さまにちょっと関心しました。

「お宅の会社の女性と主人が不倫をしている」そんな内容でしょう。

奥さまは、会社の人というだけで、具体的に「誰」とは知らない様子だったと後で人事関係の人にコッソリ聞きました。

Aさんは絶対に課長の名前を出さなかったそうです。

以前、勤務していた派遣の子と浮気したけど、もうその子は会社にいない、と説明したそうです。

そんなこともあったのに、うちの課長はまったく動じず普通に仕事をしていました。
太い心臓の持ち主です。

やがて、Aさんは会社を退職しましたが、働き盛りの40代だったのに高い代償を払ったと思います。

課長の動向が気になりましたが、全く変わりはなく、飲み会に行くといつもわたし達に「女はドンと構えてなきゃダメよ」と、恋愛指南とします。

もう苦笑いするしかありません。

しかし、これは氷山の一角にすぎません。

なんでしょう、当時20代の若いわたしより、40代の課長の方がモテていました。

悔しいですが、あれがフェロモンというやつなんでしょうか。

とっかえひっかえ男性がよってくるのを羨ましく見ていましたが、その男性の殆どというか、わたしが知る限りでは全員、既婚者でした。

課長と呑んだ時にポロッと言っていたのが、「人のものだと燃えるのよ」です。

や、やはり確信犯でした。

既婚者と分かっていて仕事を通じて距離を縮めていたんだと、40代の熟女の恐ろしさみたいなものを垣間見ました。

しかし、モテる女性上司をもつと部下は楽です。

営業の人がどんどん手を貸してくれて仕事がスムーズにいき、会議でもよほどのことがない限り反対されず、うちの課の企画は通りやすかったです。

ただし、課長よりモテては絶対ダメです。

若い営業さんが、課長ではなくわたしの席に頻繁に来るようになった時がありましたが、そんな時、わたしは課長からランチに誘ってもらえなかったりしました。

これ、今でいう所のパワハラでしょうか。

課長の機嫌を損ねると仕事もうまく回らなくなるので、若い営業さんの前で課長を褒めたりと、わたしなりに気を遣いました。

営業さんも空気を読んでくれて、なるべくわたしの席に来る前に、課長の席により「今日もおきれいですね」とリップサービスをしてくれていました。

こんなんじゃわたし、この会社で彼氏は出来ないと思い、友人の紹介で社外の人と結婚したので、課長には何とか可愛がられながら仕事が出来ました。

あのAさん事件以降も、数々の浮名を流してきた課長。

まもなく60歳になりますが、今は外注先の方といい感じになっています。

平穏無事に退職を迎えられることを願わずにはいられません。